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理事とライフプラン

・理事役は受ける。ライフプランニングの場だ

・理事会の基底に据えるべき構造とは

・健全な運営へ「常設ミッション」

理事役を避けるな

マンションの住人にとって、おおよそ理事役は頭痛の種であろう。出来る事なら関わりたくない面倒な役割と認識されてしまっている。実際に理事会の場は、管理会社提案を了解し議案化する、いわば生返事をする代理人会合の印象だ。輪番理事は一方的な提案に判断の根拠もなく振り回され、任期が終えることを首をすくめて待つようなスタンスで臨むしかない。かくして住人は雇っているはずの管理会社に家計を任せている状況に陥ってしまうのだ。

原因は具体的で重要なミッションの設定ができていないからだ。住人個々のライフプランに直結しているにもかかわらず。

基底に据えるべき収支の構造

様々な課題解決への管理会社提案はおおむね支出の話に帰着する。必要性の論に対して、単に高い安いの主観的意見ではすっきりしないと誰もが感じることだろう。判断の構造が据えられていないことが原因だ。あるべき構造は長期の財政収支見通しである。財政収支見通しとは、長期修繕計画(修繕会計)に管理費会計(一般会計)の年間収支による余剰金を加えた自己資金の推移見通しだ。これを議論の基底に置いて初めて事案を構造的に対処できるのである。

 

まずは長期修繕計画だ。30年に2回の大規模修繕工事が含まれることが期待されている。これは固定資産税優遇措置が適用される物件の条件に長期修繕計画書があるが、この「30年に2回」の組み込みが前提になっている。これが修繕会計の長期収支見通しだ。これに管理費会計(一般会計)をリンクさせてみよう。余剰金を修繕会計に繰り入れる構造で二つの会計書をリンクさせるのだ。これがマンションの将来の総資産の推移を表す。例えば過去の実績として年間80万円の余剰金があれば、それを修繕会計へ繰り入れる。30年で二千四百万円の修繕費収入になる。この余剰金組み込みも毎年チェックし見通しを更新していく。ここで気を付けるべきは、逆はNGであること。修繕会計から一般会計への繰り入れはできないのだ。

これで長期的な財政健全性という個々の議論への前提構造が出来上がるはずだ。

長期収支見通しを事案へ適用する

 この収支構造を基底に据え、個々の事案の検討をしよう。事例として、日常清掃が足りないという問題への対応を紹介しよう。住人より共用部の汚れが指摘され、解決へ清掃頻度を増やす支出増を判断する局面である。清掃費が月間8万円から12万円に上がる見積をどう判断するか。年間48万円の支出増だ。支出を増やしてもクリンリネス向上か?

 

先の長期収支構造があれば容易に判定できる。余剰金見通しが80万円・年だったとすれば、それが清掃費増で32万円に減少する。その時の長期収支への影響判断をするのである。この事例では修繕計画に大きな影響を与えないとの見通しが立ち、清掃費増額の判断となった。

健全な運営への秘訣「常設ミッション」

 二つの会計をリンクさせることによる財政見通しは、課題の合理的判断を助ける。これはお金の使い方の最適化と言い換えることができる。本事例では長期視点で余剰金を適切に日常環境向上に向けたのである。

 

まとめとして理事会の「常設ミッション」を以下に記す。

・長期収支見通しの作成および維持

・長期収支見通しによる財政の健全性チェック

・各事案の長期収支視点での判断

 

さて、住人が理事になる動機だが、この長期の財政収支と運用を理解し、実践することだ。これは自分自身の長期収支、つまりライフプラン設計に大いに役に立つ。所有後さらに生涯付きまとう毎月のマンションコストは生命保険以上の大物支出だからだ。

公益財団法人生命保険文化センターが3年に一度実施する「生命保険に関する全国実態調査」の2021年度の調査結果によれば、生命保険で払い込む保険料は全世帯平均で年間37万1000円、月換算で3万円だ。この人生の「大きな買い物」と言われている生命保険料に比べても、購入したマンションの維持費(管理費・修繕積立)がいかに「大きな買い物」であるかわかると思う。マンションという「大きな買い物」はさらにその維持という「大きな買い物」を伴うのだ。しっかりと手のひらに載せてライフプランに組み込もう。

 

#マンション #理事 #財政 #管理