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年金給付繰り下げの落とし穴

・一年我慢すれば8.4%増額!ワンルーム投資並みの年収増!?

・統計的に捉えた勝ちパターン

・運命にモノサシを当てて見えること

・果たしてワンルーム代替案は是か非か

●5年繰り下げで42%増額。ワンルームの家賃年収並みのリターンか!?

不動産収入で年金を補うシニアは多いことと思う。年収千万円層でも年金給付額は250万円・年程度だから不動産や株の配当などストック収入で補おうとする投資行動はごく当たり前だ。

そこで気になるのは年金の繰り下げ給付による給付金増額制度だ。一年給付を遅らせれば8.4%増額される。5年繰り下げれば42%、上記給付額250万円・年の場合なら、100万円・年超の増額になる。これはワンルームマンション投資の年収に相当する額だ。不動産や給与収入で5年食いつなげばワンルーム一戸分くらいの増収効果がある。さて、この目論見は妥当なのであろうか・・・

●統計的に捉えた増収戦略

結論から言えばこの増収戦略は「もやっと感」は伴うものの「あり」だ。おススメのひとつは2年繰下げとなるだろう。

寿命を統計的に捉えれば、男性の場合、65歳時の平均余命は18年、偏差は8年。つまり約7割の男は75~91で天寿を全うする。その平均は83歳だ。正規分布なら83を頂上にした75~91の山なりカーブを想定すればいい。

下表を見てほしい。

平均83歳時点での累積給付額の増額差で妥当な選択は2年もしくは3年繰下げである。さらに絞れば2年繰下げを選ぶべきであろう。累計額が最大である3年繰下げケースとの累計差は微々たるものにもかかわらず、寿命偏差の山の始まり75歳時点での通常給付との累計差は160万円だ。月割りで見れば1万7千円のマイナス。給付後の月当たり3万5千円の増額を考えれば選択に値する累計マイナスと言えよう。冒頭の期待、ワンルーム並みの年収増作戦は本ブログの最後に記述する。 

●シニアは金融合理性に当てはまらない。消費こそ人生と生き方を変えよう

年金とは給付累計で約1千万円の差、さらに個々の寿命ファクターから、5千万円超の差が生まれる金融商品のオプションの選択と言える。しかし安易に「ストックを増やしてリターンを得る」という現役世代のままの考えが当てはまるのは、家系的・生活習慣的に長寿に確信がある人に限られよう。給付対象年齢の人生はご覧の通り小さなスプレッドシートに記述できる程度だ。

余命にモノサシを当てた合理的比較にもやっと感が伴うのは、シニアになれば余命不確実性が増大することで、ボトムが大きければ良し、の評価尺度がすんなりと当てはまらないからだ。シニアにとって、蓄財・子育て・住宅ローンに変わる支出先は「やりたいこと」だろう。『 The Bucket List 』(「最高の人生の見つけ方」)のフリーマンとニコルソンばりにそれを見つけ表に追記したい。65歳でそのために250万円が必要ならば繰り下げすべきではない。65歳以降の人生にとっては消費が第一。消費によって社会に貢献している、とミッションを変えよう。不幸にも早逝するようなことがあれば、それはそれ、長生きリスクの解決に貢献できるわけだから。

●ワンルーム投資代替は「あり」。「死に金」を「生き金」に換えるチャンス

補足として、ワンルーム投資代替について再考したことを書く。死に金・生き金の観点である。

本ケースで4年ほど繰り下げればワンルーム並みの増額が可能となる(年84万円、月7万円の利益相当)。この増額分は死ぬまで空き家リスクのないフロー相当と考えられる。この時点で現物ワンルームを売却すれば即キャッシュになる。5%利回りの物件とすれば売却額は1680万円と仮定できよう。

以下の流れだ:

・65歳から4年繰下げ。1000万円の機会損失

・4年後69歳年金受給開始。250万円に加え84万円増額獲得

・同時にワンルーム売却。価格1680万円・手数料や税引き後の収入1600万円(5%利回り物件の仮定)

メリットを列記してみると:

・年金増額により、平均寿命時に累計増額188万円、長生きリスク対応として91歳時点(偏差8歳)で累計増額815万円

・ワンルーム売却により69歳時点でキャッシュ化1600万円。4年繰下げによる1000万円の機会損失を取り返したうえに600万円の増額

改めてこのメリットを要約すれば、「死ぬときに持っているはずの不動産を、69歳時点で将来の家賃収入分を年金増額で確定し、物件を現金化、生きている間に使ってしまう」ということだ。まさに「死に金」となる不動産を「生き金」に変えてしまうことと言える。69歳まで十分なフローがあり、消費をためらう必要無き投資家は一考に値するオプションである。