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長期修繕計画ならぬ「長期収支見通し」がもたらす大きなメリット

・管理費会計余剰金見通しが長計にもたらすメリットとは

・「組合意思」反映可能領域を見出せは毎月の積立金額をコントロールできる

・管理委託していても自主自営は必然だ

 

「長期収支見通し」で組合の取組むべき問題を明らかにしよう

長期修繕計画は通常管理会社が作成し、修繕積立金の将来への問題点を訴求するツールとして使用される。しかしこれだけで将来の財政を判断することは組合にとって早計だ。組合自ら長期収支見通しを作成しよう。

その要点とメリットは以下だ。

・管理費会計も含む総資産の推移が見通せ、組合財政の真の姿が判る

・組合意思を反映できる/すべき領域が明らかになる

・組合意思こそ管理費/修繕積立金金額を左右する

総資産推移とそのメリットー管理費収支をおざなりにしない

総資産とは、管理費会計の期末残高を修繕積立会計の期末残高に加えた組合の保有する総資産のことだ。長期収支見通しでのポイントは、管理費会計の余剰金実績とそれから推察される将来の余剰金を総資産推移として長計上に加え総資産ベースで修繕収支を見通すことだ。

これによるメリットは、管理費と修繕積立の二つの会計のリンクだ。赤字でない限りはおざなりな一般会計の収支が、長期修繕計画の収入改善という動機付けが生まれることで、使途を見直すコストカットや、新たな収入源を探る検討が取組むべき課題として浮き上がるのだ。長期修繕計画から「将来積立金たりませんね、値上げしましょう」という一方向の問題提起には注意しよう。

そしてさらなる改善余地があることを以下に述べる。

組合意思の反映領域ー修繕の「方式」選定は毎月の積立金金額に直結。ついでに「工法」も

長期修繕計画の左側には建物と設備の修繕箇所が並び、それぞれ各年度ごと保全出費が展開されている。保全は義務であり、また保全費用の知見を持たない組合が、この数字の羅列に対して、組合意思を反映できる余地はほぼない。

しかし、大規模修繕工事など大きな工事については修繕箇所が並ぶ左側に「方式」を加えるべきだ。これこそが組合意思の反映点であり、工事の都度検討すべき選択肢だからだ。以下が方式の選択肢だ。

・元請あり(ゼネコンと契約、下請け構造での施工)、か、元請なし(施工会社と直契約直施工)

・責任施工方式、か、設計監理方式か

この選択により修繕費用は大きく変わる。実績として直契約直施工ケースと元請ケースでその差は1.6倍だ。直施工の費用が5千万円、元請ケースでは8千万円になる事例である。

この3千万円の差は組合が企画・契約・進捗管理に汗をかき、いくばくかのリスクを許容することで得られる節約額で、これこそが組合意思の反映だ。長期収支見通しではこれを項目として明示することで、工事に際しては「どうする?」を検討することになるし、何よりもどちらを長期修繕計画で仮定するかで、来月からの修繕積立金が即変わるのだ。組合員の属性として経済的余裕あれば元請仮定で良いし、コスト重視なら元請無し仮定だ。

*注意点1*

大規模修繕工事に際して通常二回の総会が行われる。まず管理会社は「方式」について総会議決を諮り、その後、相見積もりを経て修繕工事費用予算化承認の二回目の総会議決の進め方だ。この一回目の方式選定の議案は、管理会社を元請にする議案(ゼネコン管理会社の場合)か、管理会社に設計監理を委託する議案(非ゼネコン管理会社)のどちらかで、どちらの場合でも他の比較選択肢が無い是か非か議案だ。組合員は賛成するしかない悪魔の議案だ。どの管理会社もこの進め方を取る。つまり方式選定に組合員意思が反映される機会は無いのだ。この一回目の議案づくりこそが組合意思反映の重要な局面である。

さらに、方式に加え工法も工事費用を左右する選択肢にあることを付け加えておく。長期収支見通しの修繕仮定には工法の選択肢も考慮されるべきなのだ。

*注意点2*

対象は大規模修繕工事(一般的に外壁と屋根の防水塗装)だけではない。数千万円から億の費用がかかる大規模修繕には給水設備、排水設備の更新工事などもある。これらもその方式と工法は組合意思を働かせるべき項目だ。

組合は「自主自営」か「羊の群れ」かのどちらか

「長期収支見通し」の位置づけとメリットを論じた。ひとつの組合資料追加に過ぎないが、この本質的な意義は、管理を委託していても組合には自主自営の必然あり、ということだ。自ら作る「長期収支見通し」が組合活動のテーマと意義を浮かび上がらせるツールになるのである。

世の大半の理事会は、輪番理事が手ぶらで集い、管理会社のレジュメに従って進行されている。それは管理会社の売り上げ計画を無意識に組合の総意として容認し、その売り上げ達成へまた無意識に積み立てる「羊の群れ組合」なのである。その末路は第三者管理や管理会社管理であり、規約改定を伴うそれら形態への移行後は組合意思は未来永劫生まれる余地がない。その対価は管理費・修繕積立金のお任せ増額、自分が所有した「住」のコストの制御権放棄だ。「長期収支見通し」のメリットとは、財政の構造化とその見える化による自主自営のマインド醸成、延いては生涯住コストの自分事化だ。

*論の前提*

標準的なサラリーマンの引退後、その年金給付額で「羊の群れ」組合マンションの負担に耐えられるのか大いに疑問がある。電気水道より重要なライフライン「住」を規制無い営利企業、ましてや大企業ゼネコンに丸投げしてしまう/知らずに陥ってしまうこの管理サービス市場への憂いでもある。本サイトの根底に置く前提がこれである。

長期収支見通しの作成支援

過去数年の会計資料と長期修繕計画があれば作成は容易です。無償での支援も可能ですのでお気軽に問合せ欄よりご要望ください。

 

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